以下の内容は、2004年12月8-10日に開催された日本溶射協会第80回全国講演大会において行われたオーガナイズドセッション「溶射Q&A 現場の素朴な疑問について答える」の質疑と回答内容を記録したものである。溶射に対するさまざまな疑問に対して具体的な回答が与えられており、参考にして頂ければ幸いである。なお内容は日本溶射協会誌に掲載されたものである(五日市剛,立石豊,日本溶射協会第80回(2004年度秋季)全国講演大会オーガナイズドセッションⅡ報告,日本溶射協会誌 第42巻第2号87-94頁)。同協会編集委員会の許可を得て転載する。
残念ながら、本稿にOS2 の全詳細を記すことは誌面の制約上できないのでご了承願いたい。OS2 の開催中、時折会場から技術上のノウハウや本音が聞こえてくるなど、意外性を伴った勉強会であった。学術的な議論よりも経験的な意見の交換を重視したため、必ずしも普遍性のある有意義なコメントばかりとは言えないが、こうした知見を現場で確認し合い、お互いが大きくレベルアップするためのよい機会になったと思われる。OS 終了後、何人かの参加者に感想を伺ったが、「期待した以上に面白く、大変勉強になった」、「もっと自社の技術者を参加させればよかった」、「このようなOS を是非またやって欲しい」など、嬉しいコメントを頂けた。やはりOS については、このような誌面で結果報告を読するよりも、実際にその場に立ち会った方がはるかに意義深い。その上で本稿を読まれると、臨場感を持って時折会場内から発せられた貴重なコメントも思い出すことができるのではないかと思われる。
合計5時間という長時間のOS でありながら、参加者はみな目を輝かせ、居眠りした人はゼロ。ただ、多くの課題に対して結果的に時間不足となり、不完全燃焼となった感もある。それは司会者である私の力不足が原因であり、この場を借りてお詫びしたい。しかし、同じ業界で溶射に携わっている方々が一堂に集い、自由に現場の問題点や日頃不安に思っていることを提起して、それらに対する解決案や発展的な意見を交換できたことはまさに画期的である。今後のこうした取り組みの継続は、溶射業界の発展に大きく寄与するに違いない。今回OS に参加できなかった方は、是非次の機会に出席していただき、職場の問題解決と発展に役立てて欲しい。
(テーマ1) | 封孔剤で耐候性の良いものはあるか? |
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【回答1-1】 |
無機系封孔剤(SiO2系)を紹介.その封孔剤は刷毛塗り,エアースプレーなど,あらゆる作業性に優れる.大気中の水分と反応して硬化する.得られる塗膜は無機系高分子であり,耐候性・耐湿性に非常に優れる.Al やZn-Al のアーク溶射皮膜に適用した実績有り.耐侯試験(スーパーUV
テスト)の結果も非常に優れており,エポキシ系と比較しても,優位性は明らかである.
(日本電通㈱/山本耕司氏)
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【質問1-2】 | 封孔処理は平坦な箇所は問題ないが,エッジの部分が難しい.その場合,封孔剤の濃度に留意すべきか? |
【回答1-2】 |
平坦部,エッジ部ともに封孔剤を皮膜内部に浸透させる点では問題ない.エッジ部は事前にR処理(エッジ部に丸みを持たせる処理)した後に,先行塗りを行うことで対応できる.必要であれば,封孔剤として粘度の調整も可能である.
(日本電通㈱/山本耕司氏)
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【質問1-3】 | 環境に対しては悪影響ないか? |
【回答1-3】 |
無機系の完全一液タイプであるので,有機タイプよりも環境に優しいと思われる.
(日本電通㈱/山本耕司氏)
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【質問1-4】 | 有機溶剤は何を使用しているか? |
【回答1-4】 |
一切使用していない.硬化反応過程において,若干のアルコールが発生する程度.現場で希釈を行う必要はない.この点でも環境に優しく,作業性の良さが特長である.
(日本電通㈱/山本耕司氏)
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(テーマ2) | 封孔剤の皮膜中への浸透性(浸透深さ)は? どのように評価するのか? |
【回答2-1】 |
無機系封孔剤のデータおよびZn-Al 溶射皮膜を封孔処理した後の皮膜断面における元素分布分析のデータを示す.封孔剤中のSiO2 が(100 μm 厚の)Zn-Al 溶射皮膜の中に浸透している様子を説明.Si 元素が検出された部分が封孔剤存在箇所と判断.封孔材が皮膜内部まで浸透していることが確認できる.
(日本電通㈱/山本耕司氏)
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【質問2-2】 | Zn-Al 溶射皮膜への封孔剤適用の紹介だが,セラミック皮膜等にも使用できるものなのか? |
【回答2-2】 |
当方ではAl,Zn-Al 皮膜における実績しかない.プラズマ溶射したセラミック皮膜の封孔については,アメリカのミズリー大学が研究成果を発表しており,顕著な耐食性向上が認められている.
(日本電通㈱/山本耕司氏)
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【質問2-3】 | 封孔剤の浸透性を評価する方法として,どんな手段があるか? |
【回答2-3】 |
やはりSEM ・EDX による評価が好ましいと思われる.但し,ミクロな観察になってしまうことと,装置導入コストが非常に大きいという欠点がある.もう一つは薬品を添加する方法がある.あらかじめ封孔剤に試薬を添加しておくことで,マクロな観察も行える.試薬としては蛍光塗料を用いて,皮膜の断面を蛍光顕微鏡(落射蛍光顕微鏡と落射蛍光装置で構成)で調べると非常に分かりやすい.ただし,封孔剤の硬化特性に影響を及ぼすものや皮膜の品質に影響を与えるような試薬は使えない.また,気孔中への樹脂充填具合は判定しにくい.
(日鉄ハード㈱/野口正広氏)
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【質問2-4】 | 試薬を使う方法は比較的マクロな評価ができて良いが,皮膜を切断せずに非破壊で評価できる方法はないか? |
【回答2-4】 | 簡単な方法としては,カラーチェックがある.封孔処理後にカラーチェックを行うわけだが,探傷液が染み込むようであれば,封孔処理が十分でないと判断できる.しかし,①厚膜の場合,皮膜内部の状態をチェックすることはできない,②探傷液による皮膜の汚染が避けられないといった欠点がある.
(日鉄ハード㈱/野口正広氏)
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【質問2-5】 | カラーチェックして問題なければ,封孔剤は表面近傍の気孔・ポアにしっかり浸透していると考えられる.基本的にこれで評価は十分か? |
【回答2-5】 |
十分かどうかは,皮膜がどのような環境で適用されるかによる.例えば,皮膜の摩耗が進んでいくような場合には,封孔剤は皮膜内部まで浸透している必要があり,カラーチェックのみでは評価は不十分である.
(日鉄ハード㈱/野口正広氏)
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(テーマ3) | HVOF溶射したサーメット皮膜の効果的な補修方法は? |
【質問3-1】 | 使用中に異物を噛みこむなどして,他の場所の皮膜が健全でも一部のみ剥離してしまう場合がある.研磨して再溶射をする必要があるが,細かな剥離部が多数ある場合,効果的な補修方法はないか? |
【回答3-1】 | 当社で今検討しているのは,摩擦による補修技術(摩擦肉盛).既存の技術には限界がある.溶射以外の技術との組み合わせを検討する必要があると考える.下地の材質も考慮した補修技術でなければならない. (㈱フジコー/永吉英昭氏)
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【回答3-2】 |
HVOF 皮膜の内部応力が大きい場合,部分的に応力の大きな箇所が欠陥となりやすい.質問に対する回答ではないが,本来,皮膜自体の残留応力を低くして,部分的な欠陥が発生しにくくすべきと考える. (㈱ウィティコジャパン/森下徹氏)
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【回答3-3】 | サーメット皮膜の上に肉盛補修してうまくいった経験がある.また,WC サーメットをHVOF 溶射する前に硬質肉盛または自溶合金を溶射してフュージングすると,耐剥離性が極端に向上することが分かっている. (㈱トヨミツ/境田惣一氏)
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【回答3-4】 | 補修上の問題は,皮膜の密着度が下がってしまうこと.この問題点を現場の作業員は大抵認識しているので補修についてはあまり触れようとしない. (匿名)
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(テーマ4) | Ar-H2ガスを用いたプラズマ溶射において,管理すべき項目に「電圧」があるが,この電圧はガン電圧と水素ガス流量のどちらを正として管理すべきか?(ガン電圧はノズルの損耗状態によって変わるし,水素ガス流量はいつも正確な値を示しているとは限らない.) |
【回答4-1】 |
通常は水素量を調整して,電圧を一定に管理する.水素量に関しては体積で考えるのでは無く,mol 濃度で考えるとわかりやすい.水素1mol は22.4 リットルでたった2g.例えば水素を10 リットル多く流すときには質量でいえば0.9g.それに対しアルゴン1molは体積的には同じ22.4リットルでも40gある.そのため,水素量が若干変化したとしても,質量にほとんど変化はない.つまり,水素はガス流量(質量)をほとんど変えずに熱量を調整できるガスといえる.粉末を溶かす能力は出力で考えればよく,電圧を管理した方が良いと思われる.但し,ノズルの状態が大きく変化した場合はやはり早めに交換すべきだろう.プラズマのエネルギーは,熱エネルギーと加速エネルギーとに分けて算出できる.それぞれのエネルギーには,当然,相関作用がある.熱エネルギーをエンタルピーで表し,単位はJ/kg(またはJ/mol)である.実際のプラズマ溶射レベルのエネルギー算出においては,(1)Exit Enthalpy(熱エネルギー)には『MJ/kg』,(2)Exit Gas Weight(加速エネルギー)には『g/min/mm2』が適切である.水素ガスは,加速エネルギーをほとんど変えることなく,熱エネルギーを大幅に調節することができるので,エネルギー調節用二次ガスとしては最適であろう. (㈱ウィティコジャパン/森下徹氏)
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(テーマ5) | 溶射後,皮膜に対して何らかの表面改質処理(例えば,レーザー照射)を行い,密着力を向上させたり,気孔率を下げたりという事例はあるか? |
【回答5-1】 |
例えば,Al 青銅(Cu-Al-Fe)をDJ(ダイヤモンドジェット)で溶射したままであると,非常に粗い皮膜組織であり,未溶融粒子を多く含んでいる.これをレーザーで加熱処理すると非常に均一な皮膜が得られ,基材との境界は拡散層ができ強固な密着力が得られると思われる. (メビウステクノロジー/塚本正司氏)
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【回答5-2】 |
HVOF 溶射したWC/12Co 皮膜をHIP 処理したことがある.コスト的には高いが,組織的には完全無欠と言いたいくらい,ほとんど気孔のない皮膜ができた.その皮膜のビッカース硬度は約1800 であった. (足利工業大学/戸部省吾氏)
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【回答5-3】 |
溶射した後にDLCをコーティングすると,封孔性が格段に向上するらしい. (㈱フジミインコーポレーテッド/五日市剛氏)
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(テーマ6) | 溶射皮膜の上に,他の表面処理(例えば,メッキ,蒸着,熱処理)をした場合,溶射皮膜に対する影響は? |
【回答6-1】 |
研磨した13Cr 鋼皮膜(膜厚1mm)に硬質Cr メッキした経験がある.油圧のピストンロッドなどに使用する場合,気孔から油がしみ出るため油圧の力が落ちる.これをCrメッキすることにより油圧の低下を軽減した経験がある.また,製鉄関係ではコンダクターロールに実績がある.これは
Cu で造られていることが多いが,使用中摩耗してしまう.メッキだけでは摩耗厚みを復元することができないため,溶射した後にCu メッキを行った.これである程度の通電性を維持することができた. (九溶技研㈱/藤家主馬氏)
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【参考-2】 | 溶射皮膜の上にCrメッキすることはあっても,反対にCr メッキの上にサーメットを溶射すると,サーメット皮膜の密着力が極端に低いことが分かっている.注意したい. (㈱フジミインコーポレーテッド/五日市剛氏)
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(テーマ7) | 溶射の本などに,「布や紙にも溶射できる」と書いてあるのだが,実際そのような素材に溶射技術が用いられている製品はあるのか? |
【回答7-1】 | 紙に関しては,名刺などにPRのために低融点金属等を溶射することがあるが,製品となると,かつてペーパーコンデンサへZn やAl の溶射を行ったことがある.布については,電磁波を防止するために鉛を溶射した実例がある.また,鋳造用の木型に寸法精度を維持するために溶射をしたことがある.ベニヤ板には装飾を目的として,Zn,Al,Cuなどを溶射した経験もある. (九溶技研㈱/藤家主馬氏)
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【回答7-2】 |
今でもコンデンサメーカーは溶射製品を大量に製造している.ある会社はアーク溶射機30台を使ってコンデンサ対象に施工している. (日本ユテク㈱/大割健男氏)
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【回答7-3】 |
高分子薄膜に溶射して製品化したケースもある.これを可能にするには,溶射材の選定や溶射法の選択の他に高度な基材の冷却技術,つまり基材の温度コントロールが重要なポイントらしい. (㈱フジミインコーポレーテッド/五日市剛氏)
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(テーマ8) | 道路の橋には,温度変化により橋の伸縮を吸収する伸縮装置というものがある.通常,伸縮装置は鉄系材料でできているが,雨等で濡れるとスリップの原因となり,走行安全上の問題となる.このため,アモルファス合金溶射等を表面に施し,摩擦力を確保している.しかしながら,アモルファス合金溶射は非常に高価.そこで,もっと経済的で摩擦力が確保でき,タイヤによる摩耗にも耐えうる金属溶射等があれば教えてほしい. |
【回答8-1】 |
高価なアモルファス材料ではなく,安価な自溶合金などは検討されなかったのか?という疑問が生じた.参考までに,鉄基のアモルファス粉末を2 種のプラズマ溶射機,2種のHVOF で溶射し,皮膜のXRD 分析を行ったことがある.プラズマ溶射皮膜の場合は,溶射条件によって一部結晶化したが,全般的にアモルファス単相に近い皮膜を作製できた. (九溶技研㈱/藤家主馬氏)
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【回答8-2】 |
米国では,軍関係で滑り止めとして溶射している例がある.大手アルミニウムメーカーがアルミナを含有したアルミワイヤーで実績を残しているらしい.こういった材料に切り替えられる可能性もあるのでは. (メビウステクノロジー/塚本正司氏)
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(テーマ9) | 高速フレーム溶射等で作製した緻密な皮膜に対し,封孔処理する場合があるが,実際のところ効果はあるのか? |
【回答9-1】 |
例えば,トップロールにWC 系サーメットを溶射した後,耐食性を向上させるために封孔処理をする例がある.シンクロールに関してもWC 系材料を溶射して,念のため封孔処理をする.温度が高いので無機系の封孔処理剤を使用.封孔処理しないと十分な耐久性が得られず,短寿命となるこ
とがある.ハースロールも使用温度が高いので無機系の封孔処理剤を使用することが多い. ((有)東海技術コンサルタント/佐藤隆夫氏)
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【質問9-2】 | シンクロールで封孔処理により耐久性が向上するメカニズムは? |
【回答9-2】 |
封孔処理をしない場合,気孔があればそれを介して溶融Znが浸透して行き,基材を侵蝕する. ((有)東海技術コンサルタント/佐藤隆夫氏)
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【質問9-3】 | トップロールの腐食因子は?やはりZnなのか? |
【回答9-3】 |
Znは固体状態で表面に付着しており,直接的な腐食因子ではない.ラインの中断などにより温度変化が大きくなり,ロールが結露して汗をかく場合がある.そうすると気孔があればそれを介して水分が母材に到達し,腐食に至ってしまう. ((有)東海技術コンサルタント/佐藤隆夫氏)
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【質問9-4】 | ロールの品質管理をどう行うのか? 品質保証についてユーザーへはどう説明するのか? |
【回答9-4】 |
事前のラボ試験で適正な溶射条件(粉末のスペックも含む)を確認しておき,その条件で溶射する.その溶射パラメータや封孔条件等を厳密に管理することで品質保証を行っている. ((有)東海技術コンサルタント/佐藤隆夫氏)
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【質問9-5】 | 高温で使用のハースロールでも封孔処理が必要なのか? 封孔処理すると,耐久性は何倍になるのか? |
【回答9-5】 |
皮膜の耐久性を安定させるには,やはり封孔処理が必要という結論になった.封孔処理をすると3 ~ 5 年の寿命であるが,封孔処理をしないと,1 年程度しか持たないことがある. ((有)東海技術コンサルタント/佐藤隆夫氏)
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【回答9-6】 |
ハースロールにおける封孔処理は,単に封止ではなく,皮膜表面への機能付与の考え方が強いと思う. (匿名)
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(テーマ10) | 基材の種類にもよるが,ブラスト後基材は何時間まで放置可能か? 影響する因子は何か?具体的にどんな問題が発生するか? |
【回答10-1】 |
一概には言えない.が,ブラストされた基材は,現場的には8 時間くらいは放置可能とみている.ただし,その日のうちに施工すべきで,一日以上放置することは避けるべき.基材表面に影響を与える因子としては,基材がさらされる雰囲気,温度,湿度,基材と雰囲気の温度差などが挙げ
られる.基材が湿気をおびる場合は2,3時間で錆びることがある.
((有)東海技術コンサルタント/佐藤隆夫氏)
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【質問10-2】 | ブラスト後の基材表面の変化は,現場的に目視で判断するしかないか? |
【回答10-2】 |
基本的には目視しかないと思われる.よって,できるだけ早くブラストした基材を次工程に送ることが大切.ブラスト後,保護シートでカバーすることも効果的である.また,ブラスト面の表面粗さを測定することで,肉眼では見えにくい錆の発生が分かることもある.一般に錆びると面粗度が高くなる. (日本ユテク㈱/大割健男氏)
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【質問10-3】 | 基材温度を上げると結露防止に有効と思うが,上げ過ぎると高温酸化の問題を招く.どのくらいの温度が適切か? |
【回答10-3】 |
経験的に80℃以下と思われる. ((有)東海技術コンサルタント/佐藤隆夫氏)
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(テーマ11) | 溶射粉末が原因で溶射に失敗した例は多いと思うが,最も多い本質的な原因は何か? |
【回答11-1】 |
この件に関しては,粉末メーカー側が品質管理項目でカバーできない要素があるようで厄介である.例えば,粉末をつくる工場を移設したり,新しい製造設備を導入した後,作業工程,作業員は不変でも,同じ品質の粉末製品が再現できない場合がある.要因は様々あって,より奥の深い因子も粉末メーカー側に多々ありそうだといえる. ((有)東海技術コンサルタント/佐藤隆夫氏)
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【回答11-2】 |
溶射皮膜の品質トラブルが発生した場合,「それらの主原因は溶射材料側にある」ことが多い.経験的にはトラブルの半数以上がそうであると思われる.材料に問題があるといっても,①溶射材メーカーのミス,②溶射施工側の不十分な溶射材知識,③誤ったスペック(粉末の納入仕様),のいずれかが元凶となる.数年前までは①と③の要因が多かったが,現在は②のウェイトが高いと個人的に思う.溶射材を使う側はカチカチの先入観を捨て,もっと溶射材の基礎,本質を勉強したほうが良い. (㈱フジミインコーポレーテッド/五日市剛氏)
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【質問11-3】 | 溶射粉末に起因したトラブルの具体例を挙げて欲しい. |
【回答11-3】 | 最も多いのは粒度の問題である.ロットによって粗かったり,逆に微粉が多かったり.粒度分布がシャープであったり,逆にいきなりブロードになったり.スピッティングは一般に微粉が多いと起こりやすい.海外のある溶射材メーカーから特殊な金属粉末を購入したことがある.-45+10μm の粉末として利用していたが,ロットが変わったとたんに-53+15 μm となってしまった.しかし,ミルシート(検査報告書)には-45+10 μm と記載され,粒度分布の数値も前ロットとほとんど変わらないから不思議である.しかし,こんな粗い粉末を通常の溶射条件で溶射したら,付着効率が極端に低下するだけでなく,通常とは全く異なる皮膜ができ上がってしまう.またある時,別ロットを購入したら,なぜかその粉末にアルミナが10%ほど混合されて納入されたことがあった.ミルシートや瓶のラベルには一切アルミナのことは書いていない.「何かおかしい.いつもと違う!」と現場の者が感じて,XRD(X 線回折)測定を自主的に行い,アルミナ混入が判明した.社内は騒然とした.すぐに製造元にその旨を伝えても,「そんなはずはない」と最初はクレームを受け入れなかった.が,当社で分析した種々のデータを提示することによって,やっと非を認め,正式に謝罪してくれた.当社には溶射粉末を分析する機器がいろいろそろっているのでこうしたアクションがすぐにとれたのだが,ジョブショップ等ではそうもいかないだろう.極端に粒度や組成の違う粉末をそのまま溶射したら,間違いなく大きなクレーム問題となり,しばしば賠償問題にも発展する.とにかく,ミルシートが嘘をつくこともあるので,しっかり自衛しなくてはならない. (㈱フジミインコーポレーテッド/五日市剛氏)
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【質問11-4】 | 溶射粉末を使用する立場として,どんな自衛策があるのか? 粉末メーカーの事情は一体どうなっているのか? |
【回答11-4】 |
まず,購入した溶射粉末の受入検査を行い,ミルシートに記載の数値との比較および管理を行った方がよい.簡単な粒度チェックだけでも是非やって欲しい.また,ミルシートに記載されている数値を鵜呑みするのではなく,どんな測定方法で測定された数値なのか確認すべき.例えば,粒度であれば,篩い法なのかレーザー回折法(正確には,レーザー回折・散乱式粒度分布測定法という)なのか.レーザー回折法である場合,どの機種なのかなど.機種が違うと全く異なった粒度値となることが多いからである.それから篩い法といっても,ロータップ法で行うメーカーもあればエアージェットシービングのような圧縮空気で強制的に網を通らせる方法を採用しているメーカーもあり,それらで測定した粒度の結果は全く異なるのでメーカーに必ず測定方法を確かめた方がよい.ロット間の測定値管理も同一機種を使って行うべきだろう.粒度や粒度分布が少しでも異なると,言うまでもなく付着効率,スピッティング有無,皮膜硬度,気孔率等に少なからず影響を与える.当社では,経験的に25 μm 以
上の粉末粒度は篩い法で,20 μm 以下であればレーザー回折法で測定した方がよいと考えている.と言っても,こうした測定法についての基本的な考えは粉末メーカーによって未だに異なっており,このことは粉末ユーザーを混乱させ,時には不利益をもたらす問題点の一つである.
(㈱フジミインコーポレーテッド/五日市剛氏)
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【質問11-5】 | WC/NiCrやWC/20CrC/7Niの粉末をHVOF溶射したら,時間の経過とともに皮膜表面に赤錆が発生することがある.本来,錆びにくい皮膜であるはずなのに,なぜそのような現象が起こるのか? |
【回答-5】 |
それは,皮膜が錆びたのではなく,基材側が錆びて皮膜表面にその錆が(貫通した気孔を通って)浮き出たものと思われる.WC/NiCr やWC/20CrC/7Ni は例えばWC/10Co/4Cr に比べるとスピッティングが起きやすく,緻密な皮膜になりにくいと言われている.スピッティングによる溶けボタが発生したり皮膜の気孔率が高いと腐蝕因子が気孔を通して基材に到達し,やがて基材の腐蝕生成物が皮膜表面に現れる.こうした現象を防ぐために,例えば溶射粉末の粒子強度を高め,微粉を精密にカットすることが行われる.さらに,WC の一次粒子径を大きくしたり,WC/20CrC/7Ni中のNi 量を多くしてWC/20CrC/10Ni という組成にするなど,溶射中スピッティングを起こさずに緻密な皮膜を得るための工夫が材料メーカー側の努力で行われており,すでに多方面で実用化されている.そのような見地から,特に耐食サーメットであるWC/CrC/Ni やWC/Co/Cr においては,組成・粒度は同じでも,メーカーによって得られる皮膜特性に開きがあるので,メーカー側に個々の溶射材料の設計思想をよく聞いておいた方がよい. (㈱フジミインコーポレーテッド/五日市剛氏)
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(テーマ12) | 品質が硬質Cr メッキと同等以上でコスト的に競争力のある「溶射材+溶射施工技術」の組み合わせはないか? |
【回答12-1】 |
製鉄分野におけるロールについて一例を挙げると,何の表面処理もしていない状態では通常1 ヶ月,長くとも3 ヶ月の寿命であるロールが,Cr メッキすると半年くらいの寿命が確保できることが多い.更なる長期寿命化の期待や,大型ロールへの適用を考えるために溶射皮膜が試され,その結果,寿命が3 ~ 10 年へと伸びた.この場合,コスト的にはやはりCr メッキが優位だが,溶射皮膜の方が総合的にメリットがある.また,例えば水や海水がかかるような水門の開閉シリンダーロッドなどは,Crメッキに比べてかなり寿命が長く,優先的に溶射皮膜が使用されている. ((有)東海技術コンサルタント/佐藤隆夫氏)
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【回答12-2】 |
Cr メッキ代替候補の溶射材料としてCr3C2 系およびWC 系サーメットが数年前から期待されてきた.溶射法はHVOF またはHVAF である.しかし,材料コストが高く(5500 ~ 9500 円/kg),実質的な付着効率も低い(20 ~ 40 %)ため,Crメッキのトータルコストに全く敵わない状態が続いていた.しかし,最近,Cr-Fe ベースの新しい溶射材料が高速フレーム溶射用に開発された.価格はサーメットの半額以下で付着効率は50%以上.皮膜硬度はHv800~ 1000,耐摩耗性はCr3C2系サーメットに匹敵する.耐食性はCrリッチであるため十分期待できる材料である.今後,Crメッキ代替の切り札として,コスト的に競争力ある溶射技術,新材料が間違いなく普及していくと思われる. (㈱フジミインコーポレーテッド/五日市剛氏)
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【質問12-3】 | メッキラインで使用されるロールについて,"下地に肉盛し,その上にサーメットをHVOF溶射すると,皮膜の耐久性がアップする"とのことであるが,"肉盛の上に硬質Crメッキ"と比べても溶射のメリットはあるのか? |
【回答12-3】 |
耐摩耗性が圧倒的に違う.サーメット溶射皮膜の方が耐久性の点で断然優れている.しかし,使用されるロールの設置場所によって,適正な施工方式をとることが大切で,トップコートと下地(肉盛)の寿命バランスも考える必要がある.Crメッキがだめになった場合に再メッキすることも考えられ,Crメッキがコスト的に効果的な場合もあると思われる. ((有)東海技術コンサルタント/佐藤隆夫氏)
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【回答12-4】 |
溶射工業会のハードフェーシング部会で,Cr メッキと溶射皮膜の耐久性,評価結果が,HP 上で公開されている. (足利工業大学/戸部省吾氏)
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(テーマ13) | Cr メッキと溶射施工コストとの差は実際のところ,どれだけか? |
【回答13-1】 | ロールなどに施工する場合は,サイズにより(Crメッキと溶射施工との)コスト差には違いが生じる.例えば,長さ10m以上のロールとなると,大きすぎるためメッキ槽を所有しているところが少ない.従って,仮にメッキできてもかなり高価となる.3~5mのロールであれば,大抵のメッキ
業者でも処理可能であり,かなり安価となる.溶射は大きなロールでも比較的価格の上がりは少なく,メッキの1.5倍ほどのコストとなる.小さなものの場合,膜厚の調整などでコストダウンを図ろうとも,メッキの2 ~ 3倍くらいにはなってしまう.客先の要求がコスト度外視で品質向上等のメリットに重点をおく場合,溶射は十分活躍できる.
((有)東海技術コンサルタント/佐藤隆夫氏)
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(テーマ14) | 溶射皮膜の研究は多いが,それを生み出す溶射装置の設計思想についてあまり議論がなされていない. |
【回答14-1】 |
まず,飛行粒子の温度と速度をどう制御するかがポイント.粒子が基材衝突時につぶれ過ぎず,溶け過ぎず,粒子間だけが溶けた状態を作り出すことが基本的な設計思想となる.現在主流の液体燃料のHVOFを使用すると,溶射粉末の粒度により溶ける粒子,溶けない粒子が発生する.ステンレス粉末を例にとると,5 μm の粒子はしっかり溶け,60μm 以上になるとほとんど溶けないと思ってよい.HVOF 溶射機は飛行粒子の速度と温度をある範囲内で制御する仕組みである.プラズマ溶射皮膜に生じる残留応力は,一般に引張応力である.成膜時,生じる圧縮応力よりも引張応力の方が大きいわけである.(液体燃料の)HVOF の皮膜には,プラズマ溶射皮膜内に生じる引張応力の絶対値の3 倍ほどの圧縮応力が生じている.溶射皮膜における圧縮応力は引張応力よりも好ましいと言われるが,あまり高すぎるとよくない.また,自溶合金の皮膜断面を観察する際,ラメラの形状,色調で最適な溶射条件がわかる.つぶれ過ぎず,ラメラ間のポアが少ないなど.完全に溶けていない粒子があろうとも,外殻が溶け,粒子間がしっかりと結合しているのが理想である.このような皮膜が得やすい溶射機をつくることが基本的な設計思想となる.溶射材の種類にもよるが,一般に15 μm 以下の粉末を溶射すると,溶射中おおよそ半分あるいはそれ以上の粒子が溶融すると思われる.その結果,緻密な膜となりやすく,面粗さも抑えられるなど,溶射の適用範囲が広がる.具体的には,低気孔率で水の浸透が減る,皮膜の横方向の引張りに強い,滑らかな面粗度が得られるなどの特長が発現する.溶射材を"溶かさない"考え方ではなく,"溶かしながら,出来る限り速く基材に衝突させ,積層させる"ことが大事と思われる.
(㈱ウィティコジャパン/森下徹氏)
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【回答14-2】 |
プラズマ溶射機の設計思想ということだが,1958 年にThorpe 氏が発明したプラズマ溶射機を各社がそれぞれ独自に製造して現在に至っている.しかしながら,1990年頃より可動電極ガン,Multi-Cathode,Axial-Injection 等ブレイクスルーがなされ始めた.Thorpe 氏のガンは極間距離が非常に短く,結果的に高電流,低電圧の方式となっており比較的不安定なプラズマとなっている.極間距離を予め約75mm 離したガンが100HE(最大100kW,High Enthalpy)であり,粉末投入方法も(1)Axial,(2)Radial,(3)External の何れかを選択でき,幅広い種類の材料に対応が可能となった.ノズルやガスの組み合わせにより,プラズマ溶射機でありながら最大で5 個のショックダイヤモンドが確認できる状態となり,HVOF やHVAF の代替技術として脚光を浴びている.100HE ガンは,①付着効率が非常に高い,②時間当たりの粉末処理能力が大きい,③緻密な皮膜が製作可能,④スピッティングが起きにくい等の溶射特性を有している.いずれにしても,現在市場から希求されているプラズマ溶射装置は,単位時間当たりいかに多くの貴重な材料を対象物に付着させるかが問われている.付着効率の改善なくしてプラズマ溶射機の将来は無いと思われる. (メビウステクノロジー/塚本正司氏)
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【質問14-3】 | アノードやカソードの寿命は? |
【回答14-3】 | 100HE ガンの標準的なパラメータは,溶射材がSUS316 の場合,Ar-N2-H2,330A,227V,75kW,100g/minの粉末送給で付着効率が85 %である.このパラメータで,両極の寿命は約250 時間であり,両極ともタングステンでできているため,いわゆるスピッティングは最小に抑えられる. (メビウステクノロジー/塚本正司氏) |
【質問14-4】 | 今話題のコールドスプレーはどんなコンセプトなのか? |
【回答14-4】 |
基本的に粉末材料には熱を与えずに高速スプレーする技術である.飛行粒子は,最高でも600 ℃程度の温度にしかならない.基材に高速でたたきつけることで成膜する.衝撃が大きいので,基材の変形などが懸念される.粒子間の溶けが無いので,皮膜の横方向の引張強度が低いと思われる.基材-粒子,粒子-粒子間はインパクトフュージョンでの密着力が期待されるが,隣接する粒子同士のインパクトフュージョンはほとんどないのではないか.また,低融点金属以外は付着効率がまだ低いようだ.やはり粉末を溶かすタイプの溶射機の方が,付着効率が一般に高いと思われる. (㈱ウィティコジャパン/森下徹氏)
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【質問14-5】 | 粉末を溶かすほど良いという話だが,WCサーメットにおいてはWCの熱分解が生じるのでは? |
【回答14-5】 |
WCサーメットにおいては金属バインダーが溶ける(軟化する)温度まで加熱して基材に衝突させることが理想である.そうすることで,WC の酸化や脱炭を低く抑えられる.また,WC サーメット微粉末(例えば- 10 μ m)のHVOF 溶射皮膜が最近注目されており,耐食性が要求される
ロールへ適用され始めている.微粉末ゆえに溶射フレームの熱影響を受けやすいことは事実だが,溶射時の酸素-燃料バランスや基材の温度制御を適切に行うことでWC の変質を抑えることができ,皮膜の成分変化,組成変化をほとんど起こさないことは可能である.
(㈱ウィティコジャパン/森下徹氏)
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(テーマ15 | 溶射中に発生するスピッティングの具体的な防止策は? |
【回答15-1】 |
スピッティングの起きにくい溶射材料の設計思想に関する説明.使用する溶射材料に含まれる微粉末の割合が多くなると,微粉末は溶けやすいのでスピッティングが発生しやすくなる.また,微粉末の割合が少なくても,(焼結粉の場合)粒子強度が低すぎるとガンへの送給中または溶射中に2 次粒子が崩れて微粉末化し,スピッティング発生の傾向が強まる.つまり,スピッティングを防止するには,微粉末の割合が少なく,粒子強度が適度に高められた溶射材料を使用することが重要である.このような基本的考えに基づいて,製品ごとに粒度と粒子強度の規格をしっかり決めた方がよい. (㈱フジミインコーポレーテッド/加藤伸映氏)
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【回答15-2】 |
金属粉末の場合はその材料の融点や付着微粉(サテライト)の存在程度に留意する必要がある. (㈱フジミインコーポレーテッド/五日市剛氏)
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【質問15-3】 | 溶射粉末の流動性とスピッティングの関係は? |
【回答15-3】 |
流動性が低い粉末は,ガンへの送給中に脈動を起こしやすい.粉末供給量が不安定になり,急激に多く流れると飛行粒子の軌道も安定せず,スピッティングが発生しやすくなると思われる. (㈱フジミインコーポレーテッド/加藤伸映氏)
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【回答15-4】 |
乱暴な方法ではあるが,溶射フレームには溶けないような融点が高い粉末,あるいは粗い粉末を若干混ぜて溶射することでスピッティングを防止することができる.つまり,そうした"溶けない粒子"がバレルの内壁に付着した微粒子を削り取る役目を果たすわけである. (㈱ウィティコジャパン/森下徹氏)
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【質問15-5】 | 高融点材または粗い粒子による皮膜のブラストが懸念されるが,問題はないのか? |
【回答15-5】 | 当然ブラストされて皮膜が削られるので,そうした"溶けない粒子"の混合量はあまり多くはできない.適度な混合量および粒子サイズの調整を行うことが必要である. (㈱ウィティコジャパン/森下徹氏)
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【回答15-6】 |
粒子強度が低いためスピッティングの起きやすいCr3C2/25%NiCr 粉末に粒子強度の高い同種粉末を混合し,スピッティングを抑える効果を調査した研究発表が本協会第77 回全国講演大会(H15 年6 月)において行われた.その講演論文集を参照願いたい.タイトルは『顆粒強度の調整によるスピッティングの防止策』という大澤らの発表である. (㈱フジミインコーポレーテッド/五日市剛氏)
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【質問15-7】 | 付着物が削られて,皮膜中に混入すると皮膜の品質に悪影響を及ぼすことが考えられるが,問題はないのか? |
【回答15-7】 |
この方法(高融点材または粗い粒子を少量混合する方法)は,付着の初期において付着物を削り取る効果を発揮する.よって,削り取られた付着物は一般に微細であり,その一部は皮膜中に混入する場合もあるので膜質に悪影響を与える可能性はある.ただし,通常のスピッティングの際に生じる膜質低下ほどの深刻さはないと思われる.一方,スピッティング防止のために混合した粒子が皮膜の中に閉じ込められる可能性もあり,この点も注意が必要である. (㈱ウィティコジャパン/森下徹氏)
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【回答15-8】 |
HVOF のノズル長さを変えても粉末の堆積がノズル出口付近で生じることから,高速のガス流体中におけるノズル内壁付近の境界層の流れがスピッティングに影響を及ぼしていると考えられる.流体力学的な解析を加える必要があるが,比較的密度の大きい材料粉末ではノズル先端部の形状を調節することでスピッティングをある程度軽減できる可能性がある. (信州大学/榊和彦氏)
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【質問15-9】 | 燃料に水素を使用した場合,スピッティングが起こりにくくなることが確認されている.これは,燃焼によって発生した水がノズル内壁に水膜を形成し,この水膜の潤滑効果によってノズルへの付着が起こりにくくなると考えている.そこで,ノズル内壁とガス流れの境界付近に別の流れを発生させ,スピッティングを防止することは可能であろうか? |
【回答15-9】 |
境界層に別の流れを発生させて,粉末の流れを中心に集めることが可能なのか現在検討中であり,現段階ではまだ何とも言えない. (北九州市立大学/片野田洋氏)
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(テーマ16) | WCサーメットを直に鋼材に溶射する場合,どの種類の鋼材を使えば密着強度が高く出るのか? コスト的なことも考えて. |
【回答16-1】 |
WC 系サーメットを高速フレーム溶射する場合,基材の硬度が高いほど皮膜の密着強度が高く,耐剥離性が向上する傾向にある.ただし,超硬基材のように,硬すぎてもいけない.表面硬度が高い材料は一般的に高価であるが,その場合は安価で低硬度な鋼材に下地処理として肉盛溶接や肉盛溶射を行い,その上にWC サーメットを溶射するとよい.飛躍的に皮膜の密着性,耐剥離性が向上する.例えば,図1は500 個の鋼球を,図2 は超硬球を1m の高さから繰り返し皮膜に落下させて,剥離が生じるまでの回数(耐久回数)を測定した結果である.下地処理の有無と下地硬度(下地処理しない場合は基材そのものの硬度)がいかにサーメット皮膜の耐剥離性に重大な影響を及ぼすかが理解できる.また,下地の硬さはHv350 ~ 700 が適切であり,より好ましくはHv400~600であることがこれらの図から分かる. (㈱フジミインコーポレーテッド/北村順也氏)
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【質問16-2】 | WCサーメットではなく一般的なメタルを溶射した場合,メタル皮膜の密着強度もWC サーメットと同様の傾向となるのか? |
【回答16-2】 |
詳しくは不明であるが,WCサーメットの場合とは傾向が異なると考えられる. (㈱フジミインコーポレーテッド/北村順也氏)
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【回答16-3】 | メタル皮膜の密着性は基材硬度の影響も受けるだろうが,①溶射前の予熱温度,②ブラストされた基材の表面状態(面粗度など),③皮膜内の残留応力などの影響をより大きく受けると思われる.最近,メタル皮膜の密着性向上のためにHVOFで溶射されるケースが増えている. (㈱フジミインコーポレーテッド/五日市剛氏)
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【参考16-3】 |
HVOF 溶射されたWC サーメット皮膜の密着性に関しては,面白いことに基材硬度の影響を最も大きく受けるようである.基材の硬度が高いほど密着性は高くなる.ただし,Hv700 くらいまで.硬いCr メッキの上にサーメットを溶射しても良好な密着性は得られない.加工硬化指数の高いオーステナイト系ステンレスを基材とする場合,粗いブラスト材でしっかりブラストすると基材表面の硬度は加工硬化で高くなり,その上にWC サーメットを溶射すると皮膜の密着強度は著しく高くなる.この場合,ブラストの代わりにショットピーニングしても同様の高い密着強度が得られる.安価で加工硬化指数の低い鋼材にサーメットを溶射する場合,事前に基材表面を溶射か溶接で肉盛をして硬度をHv400 ~600 とし,研削して平坦化しブラストを行ってサーメットをHVOF 溶射すると,ケタ違いに高い密着性・耐剥離性が得られることが当社の調べで明らかになっている. (㈱フジミインコーポレーテッド/五日市剛氏)
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(テーマ17) | 金属や合金との複合化(サーメット化)なしで,Si3N4,AlN,BN などの窒化物材料を溶射して皮膜作製できるか? また,B4C やSiC などの炭化物単体は溶射できるか? |
【回答17-1】 |
現状で複合化なしで溶射可能な単体はB4C のみであろう.B4C は大気圧付近で融点を有するため溶射可能であるが,その他の材料は融点がなく昇華あるいは分解するため,一般に単体の溶射は困難と思われる. (㈱フジミインコーポレーテッド/北村順也氏)
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【回答17-2】 |
当社で種々の非酸化物系セラミック微粉末をHVOF(θガン)で溶射したことがある.その結果,Cr2N,TiNやTaNは比較的容易に溶射できたが,それら単相の皮膜にはならなかった.B4C やAlN のHVOF 溶射はまだ試みていない.反応性プラズマ溶射によるAlN 皮膜作製の報告はあるようだが,生産性が低く,その他多くの課題があるようだ. (㈱フジミインコーポレーテッド/五日市剛氏)
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(テーマ18) | 溶射技術を用いた皮膜の応用例で最も効果をあげた例を教えて欲しい. |
【回答18-1】 | トータル的なコストメリットが他の処理法に比べ大きかった例を紹介. ((有)東海技術コンサルタント/佐藤隆夫氏)
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【質問18-2】 | 対象となるシリンダーロッドに一般的な酸化クロムをプラズマ溶射して通常の封孔処理をすれば,そのような効果は得られるのか? |
【回答18-2】 | そう簡単にはいかない.溶射材,封孔材,溶射装置,溶射条件の全てに工夫がある. ((有)東海技術コンサルタント/佐藤隆夫氏)
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【質問18-3】 | CFRPに溶射する前に行う特殊処理とは何か? |
【回答18-3】 |
CFRPと親和性のあるものをコーティングし,その後溶射する. ((有)東海技術コンサルタント/佐藤隆夫氏)
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【質問18-4】 | CFRPロールは多くの特許を製鉄会社が持っているが,実施上問題はないのか? |
【回答18-4】 |
((有)東海技術コンサルタント/佐藤隆夫氏)
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(テーマ19) | HVOF などで作製したサーメット皮膜は密着強度が高く,剥がすのが大変である.母材を痛めずに皮膜のみを剥離して再溶射しなくてはならないことが多い.効率的な剥離方法を教えて欲しい |
【回答19-1】 |
一般には,ブラストで剥離させる場合が多い.鉄鋼用ロールにおいて,ユーザーから再溶射の依頼がしばしばあるが,再溶射しても問題はほとんど発生していない. ((有)東海技術コンサルタント/佐藤隆夫氏)
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【回答19-2】 |
剥離剤についての説明.処理液中に浸漬させ,皮膜を+極として通電する.すると,陽極酸化が起こり,皮膜は溶解する.といっても,皮膜自体WC などは残るため,処理後に超音波やブラストで除去する.所定のものを塗布してマスキングも可能.2 種の剥離剤,A タイプ(アルカリ性)とN タイプ(中性)がある.どちらも水溶性である.A タイプはWC/Co 皮膜に効果がある.0.6mm 厚のWC 系皮膜であれば,5 時間程度で剥離処理が可能.ただし,Co やNiCr を溶解するので,母材にそういった成分が含まれる場合には注意が必要.使用できる基材は基本的に鉄系が望ましい. (日本ユテク㈱/大割健男氏)
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【質問19-3】 | 処理中に発生する六価クロムはどう処置するのか? |
【回答19-3】 |
廃液処理は,廃液中に六価クロムを含むため,特殊な処理が必要.Crメッキの専門業者などへ廃棄を依頼するケースが多い. (日本ユテク㈱/大割健男氏)
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【質問19-4】 | 例えば,オーステナイト系ステンレスが基材の場合,使用可能か? |
【回答19-4】 |
基材が溶けないとは言い切れない.注意が必要.基材が露出した箇所と皮膜が残っている箇所でムラが出る可能性もある. (日本ユテク㈱/大割健男氏)
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(テーマ20) | 大学や研究機関での溶射の基礎研究,その方々の協会や学会での発表が実際の溶射市場で有効に活用され,発展に直結していないように思われるが何故か? |
【回答20-1】 |
大学側としては,論文が書けるような案件でないと,なかなか研究に取り組むことができないという背景がある.そのため,研究内容が企業のニーズや利益に直結しにくい場合がある.また,企業との共同研究の場合,研究費が不足する傾向にある.そして,研究成果や知的財産及び利益等が大学側にとって十分に得られない場合がある. (足利工業大学/戸部省吾氏)
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【回答20-2】 |
研究者のテーマの設定は,①各教員,研究者の学術的な興味と②共同プロジェクトによる場合とに大きく分けられると思う.よって,実用面での問題点が意外に聞こえないので,企業の方々は大学や中立研究機関などにもっと問題点などを含め共同研究などを申し出てほしい.共同研究の申し込み方法などは,各研究機関等のホームページに掲載されているし,研究協力情報や研究成果なども公開されているので参考にしてほしい.また,国立大学も独立法人化となり,研究予算のうち校費(国から配分される一律の研究予算)は減る一方で,科研費,各財団の研究奨励金,ナショプロ,会社との共同研究・受託研究などの競争的資金の比率を増やさざるを得ない状況にあり,実際,校費だけでは実験などはできない.よって,企業との共同作業やより実用的なアウトプットがますます重要となっている.一方,学術的な興味によるテーマの設定も当然重要で,現在注目されているコールドスプレーの研究も,国内では私の興味からの申請で数百万円の科研費がたまたま採択された.その後,試行錯誤の装置試作から始めて5年半経ってこの秋に調査研究委員会が発足し,ナショプロへ申請する手前まで来た. (信州大学/榊和彦氏)
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